壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
「おい、待て…
もしかしてこいつら元新選組の…」

浪士の一人が私たちの過去に気がついたのだろう。

他の浪士に耳打ちをしてこの場から逃げようとしていた。

しかしここでみすみす逃がすほど私たちは甘くなかった。

私は一さんと目配せをし、一気に走り出した。

そして刀や小太刀の柄で相手の鳩尾を力の限り押した。

急所を攻撃された浪士たちはその場にしゃがみ込み、持っていた木の棒は没収され、自分たちも捕縛された。

手加減をしたつもりだったのだが、何人かは気絶をしていた。

気絶をしていない浪士は片手で鳩尾を抑え、もう片方の手で私たちを指さしながら、「新選組最強と言われた斎藤一と迎撃の魔術師杉崎快…」と言い残しそのまま意識を失った。

私は自分の知らない間に変な通り名をつけられていたことに若干苛立ちを覚えたので、その苛立ちをごまかすが如く刀と小太刀を鞘にしまうときにこれでもかというほど力を込めた。

浪士たちが連行された後、私と一さんはその場に残り、被害状況の確認などの後始末を淡々とこなし、待機所へ戻った後に上司に報告をしてその日の業務を終えた。

「俺より強い奴なんてたくさんいたさ…」

部屋へ戻りながら一さんがそうつぶやいた。

私はきっと沖田先生とかのことを考えているのだろうなと思い、黙っていようと思ったのだが、そのまま黙っていると泣いてしまいそうだったので、私はわざと一さんに声をかけた。

「そうですね。
私の方が一さんより強いでしょうしね。」

そう言った私の頭を一さんはつかみ指先に少しずつ力を入れていった。

私は「痛い、もう言わないから…」と一さんに懇願し、やっと手を放してもらった。

「ふん、迎撃の魔術師だか知らねぇが俺に勝とうなんぞ100年早いわ。」

「じゃあ、私一さんのお嫁さんになるのやめようかなぁ。
もっといい人もいるだろうし。」

そう言い残し私はさっさと走って部屋の中へ入ってしまった。

後から追いかけてきた一さんが「口だけでは愛望に勝てない」と嘆いていたので私は笑いながら「嘘ですよ」と答えた。
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