壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
次に私が目を覚ました時に目に入った者は見慣れた部屋と一さんの心配そうに私を見つめる顔だった。

「一さん…」

「愛望、松本先生からお前が妊娠しているって聞いた。

お前の退職願は俺が代わりに出しておいた。

そして俺も今日付けで警察官の職を辞職した。

結婚してくれ。

そして愛望の好きな場所に引っ越してそこで家族で暮らそう。」

一さんも辞職していたということは驚きだったが、それ以上にとても嬉しかった。

私だけここを出ていくことになったら離れ離れになってしまう。

一さんのことを好きと自覚したときから常に隣には一さんがいたのに、今更離れるなど嫌だったから。

「一さん、これからもよろしくお願いいたします。」

私は顔を赤らめながら目の前にいる一さんに答えた。

「どこに住みたいという希望はあるか?

退職金はたくさんもらったからどこへでも行こう。」

私はかねてから行きたかった地を言葉にした。

「盛岡に行きたいです。

そして貴方と石割桜を見たい。」

一さんに石割桜の話をするのは初めてだったため、石割桜とはどのようなものか想像できないらしく、一さんは私にそれが何か聞いてきた。

「石割桜は長い冬の寒さに耐え、石を割って咲く桜のことです。

この時代にどのようなぐらいの高さなのかわかりませんが、私がいた未来ではかなり大きかったんです。

だからきっと、今の時代にも石を割って生えているはず。

私はそれを一さんと見たい。」

そう言い切った後、本当は沖田先生も含めた3人で見に行きたかったんです、と小さな言葉で付け加えた。

一さんは顔をほころばせながら愛望の隣に立つのは総司でも許さん、と答えた。

「一緒に盛岡で生活しよう。

そして毎年家族で石割桜を見に行こう。」

「はい!」

思いが成就するということはこんなにも嬉しいことなのだ、そう私は心の中で思いながら思いっきりの笑顔を一さんに見せた。
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