壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
私たちの家と紹介されたところはかなり広い庭がついている豪華な一軒家だった。

部屋数もいくつもありそうな家なのだが、私が一番驚いたことは庭にいくつもの桜が植えてあるということだった。

それらはどこかから植樹されたらしく、立派な幹にたくさんの花を咲かせていた。

「これって何種類かありますよね?」

ほとんど満開を迎えていたものの、いくつかつぼみのものや五分咲きのものなどあり、何も知らない私にも一種類ではないということが分かった。

「あぁ。
この桜はゆかりのある地から植樹したものだ。

ここからここは京都の屯所の近くからもらってきた山桜にしだれ桜、八重桜に墨染桜、この桜は会津の石部桜、これは函館のソメイヨシノ。

俺たちは皆に見守られながらこれからここで生活を送る。

愛望がずっと前に言っていた『忘れる必要なんてない』って言葉を急に思い出して、各地から桜を集めた。

今年はきれいに咲きそうだが、来年以降寒い季節を耐えられるかはわからないが、いつもみんなと一緒にいるという思いを忘れないために。」

この家の庭に植えられているものは新選組にいたころに馴染みのあったもの、私たちの最後の戦いの地である会津のもの、新撰組最後の戦いの地である函館のものなどたくさんの種類が植えられていた。

このたくさんの桜にはそんな意味があったのかと思うと、どうしてもみんなのことを思い出さずにはいられなかった。

私は思わず縁側に座り涙を流してしまった。

「今は我慢しなくていい。
泣きたいだけ泣いていいんだよ。」

声を殺して泣いている私に一さんは寄り添い肩を抱いてくれた。

皆にまた会いたい。

そう思わずにはいられなかった。

でも、ここに一さんがわざわざ植えたということはその気持ちを隠さなくていいと言ってくれているようで私は嬉しかった。

「一さん、ありがとうございます…」

今はただ一さんに肩を抱かれながらそう言うことが精いっぱいだった。
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