壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
そして産婆さんの言っていた通り、およそ半刻後私は男の子を出産した。

その子はすぐに大きな声で泣き出し、無事に生まれてよかったと私が感じているときだった。

「まだ、終わってないから殿方は入ってこないでおくれ。」

赤ちゃんの声を聞いた一さんが駆け足で廊下を通り、障子に手をかけた瞬間、産婆さんがそう言った。

「でも、無事に生まれたんじゃ…」

「うるさい殿方だね。
奥方が頑張ってるんだ、もう少し待てないのかね…」

またしても言葉で一蹴されてしまい、一さんは開けかけた障子を閉め、また隣の部屋へ戻っていった。

「もしかして子どもに何かありましたか?」

まだ終わっていないという言葉に私は一抹の不安を感じてしまった。

こんなに元気な声で産声を上げている子が何か大変な未来を背負うなんて、そう思ってしまったのだ。

産婆さんは先ほどの一さんに言ったような強い口調ではなく優しい口調で私に声をかけてくれた。

「今生まれた子どもは本当に元気だよ。

まだ終わっていないというのは、もしかしたらもう一人おなかの中に子どもがいるかもしれないってことだ。

すこしだけおなかを押してもいいかい?」

まさかの双子疑惑が告げられ、私は驚きを隠せなかった。

驚きを隠せていない状態で首を縦に振ると、産婆さんは私のおなかを何度か強く触り確信したようだった。

「やっぱりこれは後産ではなく、もう一人いるね。

次に痛みが来たらさっきみたいに思いっきり力を込めて。」

まさかの双子確定という事態にも私は落ち着いていた。

産婆さんがとても落ち着いて明確に指示を出してくれたから、私も落ち着くことができたのだった。

そして再びやってきた痛みとともに私は最期の力を振り絞り、思いっきり力を込めた。

「楽にしていいよ。
今度は女の子だね。

最後に後産があるけれどそれは軽く最後に力を入れるだけでいいから、いったん息を整えよう。」

大きな産声とともに二人目も生まれ私はすべての力を使い果たした気分だった。

そして少し休憩した後に後産もすませ、私は出産を終えた。
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