壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
函館府は本州へ敗走したものの、蝦夷地にはかつての幕臣松前藩がいる。

この松前藩を完全制圧しない限り、蝦夷地を完全支配したことにはならないだろう。

今までとは違い旧幕府軍がこの地では優勢に戦えているということが一種の気の狂いだったのだろう。

函館府が敗走した今、松前藩など敵として戦う価値もなかった。

だから旧幕府軍はひとりに書状を持たせ、松前城へ行ってもらい自ら降伏させようという計画をたてた。

この計画を実行する前に気がつくべきだった。

函館府は武器を持たない人間に攻撃したのだから、松前藩も同じことをするかもしれないと。

俺のこの考えはどうにか思い過ごしであってほしい。

そう思っていたのに書状を持った人間が二度と旧幕府軍の陣中に帰ってくることはなかった。

松前藩に殺害されたのだ。

この出来事は俺たちに戦うことを決意させるものとして十分だった。
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