壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
「遅くなってすまない。」

土方隊の到着により、一気に新選組のほうへ勝算が傾き、斬り捨てから捕縛へと方針が変更になった。

土方隊が到着するまでは逃走するものもいたが、到着してからは逃走するものはなく、次々捕縛されていった。

「杉崎、上に行け!」

斎藤先生と背を向かい合わせるようにして、相手と戦っていたが、上の階のほうが多くいたため、私は斎藤先生の指示のもと、階段を駆け上がった。

二階では近藤先生らが戦っており、私は永倉先生に襲い掛かろうとしていた相手の刀を自分の刀で受け止めた。

「俺たちの邪魔をするな。」

「新選組の義に背くものは何人たりとも許すわけにいかない。」

私と相手は互いに刀を交わし、一進一退の攻防を続けていた。

このままでは埒が明かないと感じた私は右手のみで刀を持ち、相手のすきを見て小太刀を引き抜いた。

「二刀流か。
しかし、刀が二本だからといって強くなるわけじゃない。」

私のことを下に見ているらしく、二刀流の構えを見せても相手は笑みを浮かべていた。

しかし、私は伊達に二刀流でやっているのではない。

実戦で使う日の為、斎藤先生には何度も稽古をつけてもらい、刀を片手で震えることなく持てるようにしてきたのだった。

刀と小太刀はそれぞれどちらも攻防に使い、相手にどちらで攻撃するのかを分からせないようにしながら交し合いが続いた。

「そろそろ諦めたほうがいいと思いますよ。
貴方の仲間はもうほとんど残っていません。」

周りを見渡すと、斬られ命がついえた人、捕縛された人が多くいてすでに立っている人はほとんどいなかった。

私は相手をけん制するため、そう言ったのだが、あまり効果はなかった。

「俺だけ残ってやることだってできる。」

このままでは私の体力が持たない、そう感じたため、私はかけに出ることにした。

一度間合いを取った後、相手の懐まで走り、小太刀を力の限り下から上へ突き上げた。

そしてそのまま後ろへ回り込み、相手の肩から腰に掛けて刀を斜めに斬りつけた。

もしこれが致命傷を与えられていなければ、私は太刀打ちできない。

お願いだから倒れてくれ…

そう思っていると、相手はひざを折り、その場に崩れ落ちた。

起き上がってくる様子もなく、遠目で見て呼吸をしているようにも見えなかった。

私はついに人を殺めてしまったのだ。

自分がこの世界で生きていくためには殺られるまえに殺るしかないのだが、それがわかった瞬間、震えが止まらなかった。

周囲には他の新選組隊士が殺めたであろう人だったものがいくつも転がっており、私はその場にしゃがみこんでしまった。
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