壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
沖田先生はすぐに戻ってきた。

あまりに早い戻りだったので、誰もが逃がしたと思っていたのに、沖田先生は山南先生を連れ戻したのだ。

大津宿にいた山南先生は抵抗することなく、沖田先生につかまり、切腹すると分かっていたのに、自らの意志で戻ってきたのだった。

山南先生の切腹は翌日に決まり、介錯は本人たっての希望で沖田先生がやることになった。

私は近藤先生から命を受け、座敷牢から山南先生が脱走しないかを一晩見張ることになった。

「山南先生、どうして…」

「明里と一緒に暮らすためにその準備の為、江戸に行こうとしただけだ。

ただ、それだけ。

私は新選組よりも明里を選んでしまった。

切腹する、これは仕方のないことだ。」

明里さんとは山南先生が恋焦がれている島原の女で、明里さんの年季明けにふたりで江戸に行き、暮らす計画を立てていたのだという。

しかし、運が悪く局中法度が制定されてしまい、覚悟を決め脱走したのだという。

「すまない、すまない…」

その晩、山南先生はずっとこの言葉を口にしていたが、脱獄をする気配はなく、朝を迎えようとしていた。

「山南先生、一晩考えていたのですが、やっぱり納得できません。

今ならまだ間に合います。
どこか遠くへ逃げてください。」

ここで山南先生のことを逃がしたら、私も罰せられる、そう思っていたが、その言葉は支援に私の口からこぼれた。
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