壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
日が完全に昇り、時間は刻一刻と迫ってきた。

本来、夜の間だけ山南先生の側に居る予定だったが、私は夜が明け、交代の隊士が来てもそれを断りずっとここに居続けた。

やがて山南先生に白い着物が渡され、着替え終わると座敷牢から出る時間となった。

庭先には局長、副局長、各組の隊長が待っており、真ん中には一枚のござが敷かれていた。

「皆皆様に、最後までご迷惑をおかけすること、お許しください。」

山南先生はそう言い残すと用意されていた小刀で自分の腹を貫いた。

そして沖田先生が泣きながら、それでも素早く山南先生が苦しまずに逝けるよう介錯をしたのだった。

時間にしてはわずか数分の出来事であったのにも関わらず、まるで数時間経ってしまったように現場は静まり返っていた。

誰も動かない時間が続いた後、近藤先生が立ち上がり、近くに用意していた棺、山南先生のだんだら羽織、花などが近くに運ばれてきた。

山南先生の亡骸は止血処理をし、普段の着物に着替えさせられ、棺の中におさめられた。

山南先生の身体の上にはだんだら羽織が、周囲には花が入れられた。

「山南、こいつは入れられないから、沖田にあげてもいいか?」

近藤先生は山南先生がかつて愛用していた刀を棺の中へ一瞬入れた後取り出し、横で立ち尽くしている沖田先生に預けた。

棺が閉められる直前、終わった後に一瞬席を外していた伊藤先生が戻ってきて、山南先生の棺にひとつの歌を入れた。

『春風に吹き誘われて山桜散りてぞ人に惜しまれるかな』

散ってしまった後、惜しまれる山桜のように、山南先生の死も人々に惜しまれているという歌であった。
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