壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
山南先生が新選組からいなくなり、屯所内は一気に暗い雰囲気になってしまった。

特に沖田先生は部屋から出てくることがほとんどなく、今度は沖田先生の体調が崩れてしまうのではないかと心配する隊士が多くいた。

私は斎藤先生に言われ、沖田先生の様子を見に来たのだが、何度頼んでも入れてもらえず、私は勝手に中へ入っていった。

「沖田先生、甘味好きですよね?

山南先生のところへ行った帰りに買ってきました。

最近ほとんど食べていないと聞き、私も他の人もみんな心配しています。」

私は言葉に気を付け、なるべく優しい声で沖田先生に話しかけた。

しかし沖田先生は私のほうを向いてくれることはなく、ずっと同じ言葉を繰り返していた。

「俺が殺した。

山南先生を俺が殺した…」

心をどこかに置いてきてしまったような沖田先生はずっと山南先生の刀を持ち、つぶやき続けていた。

私は立ち上がり、沖田先生の手元から山南先生の刀を奪い取り、それをありったけの力を込めて廊下側へ投げた。

戸が開いていたため、そのまま部屋の外へ、縁側の下あたりに山南先生の刀は落ちた。

「俺だって山南先生に死んでほしくなかった。

でも、沖田先生にも死んでほしくない。
人は食べないと死にます。

もし、沖田先生が山南先生の後を追うというのであれば、俺は絶対に許しません。

山南先生の分まで生きることが一番の弔いじゃないんですか。

俺は沖田先生が生きていてくれるのであれば鬼にだってなります。」

いうだけ言うと、私は先ほど投げてしまった山南先生の刀を拾いに行き、沖田先生の手元へ返した。

「すみません、先ほどは言いすぎました。

俺のことは嫌な奴と思ってもいいですが、心配している人は大勢いるっていうことを思い出してください。

失礼します。」

私は一応先ほどの非礼を謝り、沖田先生の部屋を後にした。

すぐには効果があったのかわからないけれど、少しでも沖田先生の心に響いていることを願って。
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