壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
三条制札事件
禁門の変以降、尊王攘夷派が大きく動くことはなく、新選組隊士が行なっている京の見廻りも何も異常がない日がずっと続いていた。

それは、嵐の前の静けさのようだった。

しかしある日、事件は起こった。

幕府が三条大橋に立てた長州藩を朝敵とすると書かれた札が三回にわたって抜かれ、鴨川に捨てられていた。

犯人を捕らえるため、制札の警護が新選組に命じられ、原田先生が組長を務めている十番隊を中心として、各組から数名制札の警護に当たることとなった。

私は斎藤先生に許可を取ったのち、自ら今回の警護に志願した。

今回の計画としては制札を抜いた者がいた場合、あらかじめ作ってあった包囲網を使用し、追い詰め捕縛するというものであった。

私は町屋を見張る隊へ参加することが決まり、何かあったときすぐに全線で動けないということに少しだけ不満を覚えていた。

もちろん私は原田先生率いる十番隊のところに参加したいと伝え、一度は許可が下りたものの、それを知った斎藤先生が阻止したらしかった。

「俺の組のやつを一番危険なところに置く気か?」

少し怒りを込めた声で原田先生の元へ行き、他のところに置くと言わなければ、今にでも胸ぐらをつかむのではないかという勢いで問いただした。

「本人が志願した以上、仕方がないと思うが?」

しかし、私がそこそこ戦えるということを知っている原田先生はどうしても前線に置いておきたいのか斎藤先生に譲らなかった。

「杉崎、お前が選べ。
俺の指示に従うのか、原田のところに行くのか。」

急に選択権を与えられた私は黙り込んでしまったが、斎藤先生の射殺すような視線と原田先生の期待に満ちたまなざしが怖かったので、私はひとりを選んだ。

「原田先生、すみません。
今回は後方に徹します。でも、いざとなればほかの皆さんと駆け付けるので…」

どんどん声が小さくなりながら私は自分の意見を口にした。

原田先生は一瞬残念そうな顔をしたものの、「三番隊所属だから仕方ない」と言い残し、自分の部屋を後にした。

主のいなくなった部屋に長居をするのはよくないと、私と斎藤先生も原田先生の部屋を後にした。
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