壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
私は目の前にいる土佐藩の藩士と刀を交えることが精いっぱいだった。

目の前にいる男は土佐藩の中で殿を務めているらしく、他の土佐藩の藩士が逃走していくにもかかわらず、この男だけは三条大橋を後にしようというそぶりを見せなかった。

私はこの男だけは絶対に逃がすまいと決め、小太刀を引き抜き二天一流の構えをした。

「絶対に逃がしはしない。」

私は男にそう告げると一気に間合いを詰めた。

そして小太刀で相手の攻撃を受けつつ、刀で相手の懐を狙い離れるといった攻防を何度か繰り返しているうちに、お互いの体力がなくなりかけてきた。

現在の戦況は他の土佐藩の藩士は全員逃亡を成功させており、追いかけていった新選組隊士以外全員がこの男に向けて刀を構えているといった状況だった。

「杉崎、お前がこの男を捕らえろ!
生きてさえいれば何をしてもかまわない!」

原田先生は男の退路に立ち、私に向かって捕縛命令を出した。

「わかりました!
もしかしたら刀が飛ぶかもしれないので、気を付けてください!」

私は私たちを囲むように立っている新選組の隊士にその旨を伝えると左手に持っていた小太刀を地面に投げ捨て、両手で刀をしっかり握ると男に向かって走っていった。
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