壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
翌日、浅野は白の装束を着た状態で両側を新選組隊士につかまれるようにして登場し、切腹用の小太刀を受け取った。

「さっさと腹切って逝け。」

小太刀を手に持ったまま微動だにしない浅野の様子にしびれを切らした土方先生が立ち上がり浅野の方へ近寄ってきた。

「それとも俺がもっと苦しませて逝かせてやろうか?」

自分の刀を抜刀すると、浅野の目の前で素振りをし問いただした。

「土方、手を出すな。
こいつにはけじめを自分の手で付けさせなきゃ意味がない。

浅野、さっさとやれ!
土方がやる前に!」

近藤先生に手を出すなと言われ、土方先生はしぶしぶ刀をしまい元の席へ戻り着席したのだが、その手は依然として刀に触れられており、いつでも抜ける状態になっていた。

やっと覚悟を決めた浅野は持っていた小太刀を自分の腹へ突き刺した。

普段ならここで介錯役が首を斬るのだが、今回はいない。

まだ息のある浅野は歯を食いしばり、小太刀を90度まわしたのだ。

もちろん自分の腹に刺したままで。

それでも浅野はまだ死ぬことができずに傷みにこらえながらも息をしていた。

浅野の切腹を見守っていた人は皆思った。

このまま死ぬことができずに苦しむくらいなら、命令違反を犯してでも自分が介錯をしてやりたいと。

仲間が苦しむ姿を見たくないのは一緒だった。

しかしここで誰も動かなかったのは、命令違反で自分が切腹するのが嫌だったからである。

介錯役が付いたとしてもこんなことで命を失いたくなかったのである。
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