壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
斎藤先生がいなくなっても新選組が何か変わるわけはなく、まるで最初からそんな人が存在していなかったのではないかと思ってしまうほどだった。

斎藤先生から三番隊を託され、私は今組長として日々奮闘しているのだが、慣れていないせいかうまくいくことがなく、すでに心が折れそうになっていた。

そのためか、休みの日でも部屋で書物を読み漁ったりすることが多くなり、私はあまり人前に出なくなっていた。

「すーぎさきさん?
呼んでも返事がないので勝手に入りますね?」

そう言って障子を開け中に入ってきたのは沖田先生だった。

「あっ、沖田先生…
すみません、気がつかなくて。」

山南先生の一件があってからわたしはなぜか沖田先生に気に入られてしまい、初めて会ったときに間者扱いした人とこの人は同じなのかと最近思うようになってきた。

私が組長になってからは呼び捨てで呼んでいたのに杉崎さんと呼ぶようになり、斎藤さんがいたころとは変わってしまったと痛感せざるを得なかった。

「もしかして一君のこと考えていました?」

私が目の前にいる沖田先生のことそっちのけで斎藤先生のことを考えていたのはばればれだったらしく、私は潔く斎藤先生のことを考えていたことを告げた。

「はい。
なんか斎藤先生が元からここにいなかったのではないかってこの頃感じてしまって…

私もいつまでも斎藤先生の影を追いかけてたら駄目なのかなって、どうしても考えちゃうんです。

駄目だっていうのは頭ではわかっているんですけど…」

私は今でも斎藤先生が帰ってきてくれるのではないかと、そんなことはないとわかっているのに考えてしまう自分が嫌だった。
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