壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
斎藤先生の目の前で泣き続けて5分ほど経ったころ、沖田先生がひょこっと顔を出した。

「一君、なーに杉崎さんのこと泣かしてるの?」

沖田先生は若干にやにやしながら私たちのもとに現れた。

「俺が本当に脱退したと思っていたらしく、戻ってきたのが嬉しいんだってさ。

それより、総司に頼んだよな?
俺がいない間、杉崎のことを頼むって。

お前は俺がいない間なんて言って杉崎のそばにいたんだ?」

強面になりながら斎藤先生は沖田先生に問いただした。

沖田先生は斎藤先生のその顔にひるむことはなく語りだした。

「無理に忘れる必要はないって伝えたけど?

どうせ帰って来るのはわかってたし、あんまり思いつめなくてもいいんじゃないかって。」

この話の内容からして沖田先生は斎藤先生が脱退したのではないと知っていたということに気がついた私は涙を拭き、沖田先生に向かい合った。

「沖田先生、教えてくれてもよかったのに…」

沖田先生のけち!と言わんばかりに私は沖田先生に不貞腐れた表情を見せた。

「俺だって言いたかったけど、一君に怒られちゃうからさ。

杉崎さん、恨むなら俺じゃなくて一君の方ね。」

斎藤先生のこなした任務が命がけのものであったと心の奥ではわかっているものの、自分だけ仲間外れにされたようでなんかいやな気持になった。

特に沖田先生にはその気持ちが強かった。

私が本気で落ち込んでいるときに忘れる必要はないと言ってくれた時はありがたかったのだが、それは斎藤先生が必ず新選組へ帰ってくるのがわかっていたからこその言葉だったのだと思うと特にやるせない気持ちになった。

「一君、杉崎さんそんな怖い顔で睨まないでって。

杉崎さんの顔がだんだん一君と同じ鬼の顔になってるよー。」

この人はこの期に及んでもまだふざけたことを言うのかと私と斎藤先生があきれたころ、ついに本題を口にした。

「そうそう、一君が帰ってきたことに気がついた局長と副局長が杉崎さんも一緒に部屋に来るように言ってたよ。

俺はそれを伝えに来たんだった。
危うく忘れるところだった、失敬失敬。」

沖田先生はこんなに軽い人物だったのかと疑問と呆れを心の中に抱きつつ、なぜか私つきで呼ばれているとのことだったので、私は斎藤先生の後を追うように近藤先生の部屋へ向かった。
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