壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
私はよかったと思いつつも一時だけ組長という重責から解放された斎藤先生に再び重責を押し付けるようなことをしてしまったことに少しだけ罪悪感を感じていた。

「杉崎、お前が何を考えているのかは俺にはわかるから一つだけ言わせてもらう。

この世にはどんな重責にも耐えるように生まれてきた人間がいる。

そいつは何があってもあてがわれた運命から逃げることは許されねぇ。

そして斎藤はそれに当てはまる人間だということだ。

このことは斎藤本人が一番理解していることだからお前が気に病むことはない。」

なぜ土方先生は私の考えていることがわかるのだろうと思いつつもその言葉に救われたと感じた。

そして斎藤先生の方を向くと斎藤先生は静かに頷いていた。

私はこの時に悟った。

この世には神がわざと試練を与えるのだと。

そして与えられたものはそれから何があっても逃れることは許されないと。

「お前の帰りを待ちわびてたのは三番隊の隊士も同じだ。

話は終わりだからさっさと障子にへばりついてる三番隊の隊士にその面見せてやれ。」

先ほどから私は誰かが障子を挟んだ廊下にいる気配は感じていたのだが、土方先生は水ともそれが三番隊の隊士であると断言したのだ。

そして障子を開けた先には「ばれてましたか…」と言わんばかりの表情をした三番隊の皆が立っていた。

「斎藤先生、お帰りなさい!」

土方先生の部屋から出て最初に斎藤先生に架けられた言葉はおかえりなさいだった。

つまり、私だけではなく皆も斎藤先生が帰ってくると、根拠はないものの心の奥底で信じていたのだ。

「お前らには何も言わずにいなくなってすまなかった。

これからはずっとお前らと一緒だからな。

俺は杉崎以上に厳しいから、俺のなまった腕をどうにかするついでにお前らに稽古をつけてやる!」

三番隊の隊士は「えぇ」といいながらも我先にと道場へかけていったのだ。

「杉崎、お前の腕も俺が直々に相手してみてやる。

強くなったんだろ?」

「努力はしたつもり…ですがお手柔らかに…」

にやりと笑う斎藤先生はこの先どんな稽古をつけてくれるのだろうと想像しただけで少しだけ怖かった。

この日、三番隊の隊士は全員動けなくなるまで斎藤先生に稽古をつけられたというのは言うまでもない。

そして全員思ったのだ。

剣の腕がなまっているどころか、今まで以上に強くなっていると。
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