壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
張り込みをしてから5日後の真夜中、ついに公金を盗んだ犯人が現れたのだ。

私は暗闇から息をひそめてその男の動向に注目していた。

その男は辺りを見回し、人の気配がないことを確認した後、公金を自分の懐にしまったのだ。

私はそれを確認した後、その男が部屋を後にする前に声をかけた。

「谷先生、それどこに持っていくつもりですか?」

人気のなかった暗闇から自分の名前を呼ばれた谷先生は驚き、辺りを見返した。

私は部屋の隅から小太刀を抜刀した状態で姿をあらわした。

「俺、一時期稽古してたからかなり夜目が利くんですよ。

ほんのちょっとでも月明かりがあればそれが誰なのかわかるくらいには。」

急に小太刀を抜刀した状態で姿をあらわした私に驚いた谷先生はその場にしゃがみ込むと誰も聞いていないのにもかかわらず、せっせと弁明を始めた。

「お願いだ、見逃してくれ…

母が病気で金が要るんだ。
給金だけでは足りず、後で返すつもりですこしだけ借りただけなんだ。

副長助勤の言うことなら従うよな?
杉崎は副長助勤補なのだから。」
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