壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
私が起きたとき、日はかなり高くまで昇っていた。

まだ調べ役としての仕事、谷先生が言っていたことは本当のことだったのか確認し、近藤先生らに結論を報告していないどころか、谷先生がそんなことを言っていたという報告さえしていなかったことに対し、私は焦りを隠せなかった。

現状谷先生は牢に入れられ調べ役の隊士がその牢を警備しているのであろうが、谷先生がお金を盗んだ理由について知っているのは私しかいないのだから。

私は急いで着崩れを直すと近藤先生の部屋へ向かった。

「近藤先生。
谷先生のことで報告があります。」

私は入室の許可をもらい近藤先生の部屋へ入るとそこにはなぜか土方先生も同席していた。

「お前は寝すぎなんだよ。

丸二日寝るなんてありえないだろうが。」

入って早々土方先生にそんなことを言われ私は驚いた。

半日ほど眠ってしまったのではなく、実は二日半寝ていたということに。

「すみません!
まだ谷先生のことで報告していないことがあるにもかかわらず…」

私は先ほどよりも焦りを感じ、心を込めて近藤先生と土方先生に頭を下げた。

「杉崎、頭をあげろ。

お前が寝ている間に谷がすべてを自白した。

女に貢ぐために自分の給金だけでは足りずに公金に手を付けたと。」

私が寝ている間にどうやらかなり話が進展していたらしく、私は驚くとともに谷先生がやっぱりうそを言っていたのだと納得した。

「谷の切腹は明後日に決まった。
介錯は近藤周平の予定だが周平が斬れなかった場合、杉崎に介錯を頼むことになっている。

周平は斬れないだろうから介錯補佐のお前が谷を逝かせろ。」

実の弟に介錯をさせようとしているなんてずいぶんと酷なことを考えるものだと思いながらも、これは近藤先生と土方先生なりのけじめなのだろうと感じた。

「わかりました。
必ず私が逝かせます。」

介錯補佐とはいえ初めてその役割を与えられた私は心中穏やかとは言えない状態だった。

しかし一度命じられれば断れない、断ったとしたら私が命令違反になり切腹を申し付けられてしまうと感じ取った私はそれを断るなど、自分の命を捨てるような真似はしなかった。
< 86 / 271 >

この作品をシェア

pagetop