壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
2日後、谷先生は白装束を着用し、皆の前に現れた。

浅野の時とは違い谷先生は自らの意志で歩き、地面に座った。

「局長、最後に一つだけ言わせてください。」

谷先生は地面に正座をしたまま近藤先生の方を向くとしゃべる許可をもらった。

「最期の弁明なら聞いてやる。」

しゃべることを許可された谷先生は今の心の内なのか数個と言葉を紡いだ。

「今更命乞いはしません。

俺がいなくなった後、周平を責めるような真似はしないでいただきたい。

唯一の肉親を失った周平をどうか新選組においてやってください。」

性は近藤を名乗っているものの、周平はまぎれもなく谷先生と血のつながった兄弟であり、すでに両親が他界しているため唯一の肉親だった。

どうやら谷先生は自分の犯してしまった罪を自覚し、すでに覚悟を決めているようだった。

「谷、約束しよう。

周平を俺の養子から外し、谷家の家督を継がせる。」

この瞬間、試衛館道場を継ぐ者として近藤先生の養子になっていた周平は養子から外され、近藤姓を名乗るのではなく谷と名乗ることが決まった。

「ありがとうございます。」

谷先生はそう言い残すと切腹用の小太刀を受け取り、深く自分の腹へ突き刺した。

その姿を周平は刀を片手に持ち、泣きながら見ていた。

一歩も動こうとしない周平を押しのけると、私は力の限り谷先生に向かって刀を振り下ろした。

少しでも苦しまないようにと頸動脈を狙って。
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