壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
「どうして斎藤先生も沖田先生もやさしくしてくれるのですか?」

言葉を失ったあの日から、これが初めて私が口にした言葉だった。

それはとても小さな声で聞き逃してしまいそうなほどだったが、沖田先生は聞き逃さなかった。

「どうしてって言われても困っちゃいますね。

きっと杉崎さんは仲間だから心配でたまらないって言っても信じてくれないでしょうし…」

沖田先生は腕を胸元で組み、考えるそぶりをしてから答えた。

「杉崎さんが好きだからです。

もちろん、杉崎さんが男だっていうのはわかっているので、恋愛対象としてではないですけどね。

でも、もし杉崎さんが女だとしたら俺は間違いなく杉崎さんに恋をしていたと思う。

大切な人が苦しんでいるのを見るのって案外つらいことなんですよ。

いっそ自分が代わってあげられたらどんな楽なのだろうって。

その苦しみを分かち合うことができたらどんなに良かったのだろうって。

一君がどんな気持ちで杉崎さんに接しているのかは俺にはわからない。

だけど、きっと同じ思いなんじゃないかなって。

好きだから、大切な人だからその苦しみを少しでも分かち合いたいって。

杉崎さん、もう少し心の整理がついたら思う存分泣いてください。

その時は俺も一君もあなたのそばにいるから。

そろそろ稽古をつけないといけないので失礼しますね。」

沖田先生はそう言い終えると余ったお団子を私の隣に置いたまま立ち上がり、去っていった。

この日私はあの日以来初めて涙を流した。

その涙は頬を一筋つたっただけで下にこぼれることはなかったがこの日を境に私の心は少しずつ色を取り戻していった。
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