壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
ある日、三番隊が非番の日、斎藤先生は私を屯所の外へ連れ出した。

どこに行くわけでもなく京の町をあてもなく歩き、おなかがすいたら近くのお店で食事をし、変わったお店があればそこに入って品物を見たりと、何も語ることなくずっと斎藤先生は私の隣にいた。

「斎藤先生、すみません…
そしてありがとうございます。」

日が暮れようとしているなか、屯所への帰り道で私はこの日初めての言葉を発した。

「いつも隣にいてくれてありがとうございます。」

斎藤先生はその場に立ち止まり、私の手を握りながら答えた。

「愛望、いつも俺のそばにいてくれてありがとう。

愛望は俺にはもったいないくらいいい女だ。

このままふたりで逃げてどこかで暮らすのもいいのだろうけれど、きっと愛望はそんなこと望まないんだろうなぁ。

愛望は誰よりも努力家でいつも自分に厳しく他人にやさしいよ。

もっと自分に優しくなってもいいんだぞ。

俺はいつでも愛望のそばにいる。

頼りないかもしれないけれど俺を頼ってくれ。」

斎藤先生は辛そうに、せつなそうに私にそう告げた。

どうして私の周りにはこんなにもやさしい人が多いのだろう。

ずっと一緒にいたいと思えるほど大好きな斎藤先生、いつもなんだかんだ気にかけてくれて、よく話しかけてくれたり甘味をくれる沖田先生、言葉では厳しいことを言うのに、なんだかんだやさしくしてくれる土方先生。

どうして今まで大切な仲間のことを忘れてしまっていたのだろう…

こんなにも私にやさしく接してくれる大切な仲間のことを。
< 96 / 271 >

この作品をシェア

pagetop