壬生狼の恋ー時を超えたふたりー
心の中で一度そのような感情が沸いてくると、それまでほとんど色のなかった世界が途端に色づいてくるような感じに襲われ、私は自分の感情を完全に取り戻した。

「斎藤先生、長い間心配とご迷惑をおかけしました。

私は、俺はもう大丈夫です。

大好きな斎藤先生や大切な仲間の存在に気がつくことができました。

もう二度と心をさまよわせたりなんてしません。

私は新選組の隊士なのだから。」

完全に自我を取り戻した私に斎藤先生は驚きながらもとても喜び、少し泣きそうだった。

「あぁ、戻ってきたんだな。

杉崎快、お帰り。」

斎藤先生はあえて私のことをフルネームで、斎藤先生が私にくれた名前で呼んだ。

「杉崎快、ただいま戻りました。

斎藤先生、これからも厳しく俺のことを指導してください。

そしていつか斎藤先生が唯一背中を預けられるような存在になります。」

「俺が背中を預けられるって思うのは、俺と同等かそれ以上の剣客だと認めた奴だけだ。

杉崎に追いつかれないように俺は稽古を積むから、ついてこれるならついてこい。

ただし容赦はしねぇからな。」

本当に嬉しそうにそう語る斎藤先生を見ていると私も嬉しくなってきた。

「どこまでだってついていきます。

斎藤先生となら私は地獄にだってついていきます。」

「ったく、心を取り戻したと思ったら相変わらず言うじゃねぇか。

帰ったら食事の時間まで道場で稽古だ。

お前は一か月以上刀を握っていなかったんだから俺が一から鍛えなおしてやる。」

そして私たちは屯所まで走って帰っていった。
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