エセ・ストラテジストは、奔走する
「……私も、いつも茅人に触りたい…、」
ムードは作れない。
勝負下着も勝負する前にバレた。
押し倒すのなんか、到底無理。
作戦は何一つダメだし、はしたないことは言うし、
でも茅人にだけは、全部ちゃんと伝わって欲しい。
「……だから、もう大丈夫だから、
私に沢山、触れてくれませんか…」
"理由が無くても、手を繋いだり、
…私のこと、だ、抱きしめてくれませんか。"
____嗚呼、告白した時もそうだった。
あの時、ただひたむきに言葉を繋げた勇気を、
彼への気持ちを、絶対もう、忘れたりしない。
この真夜中の静けさに自分の声だけが鮮明に響く状況に、次第に居た堪れなくなってくる。
沈黙が辛い。
言い方とか、色々間違えたかもしれないけど、もう自分の発言を振り返る勇気は無い。
それに、私の正直な気持ちだ。
四肢は完全に茅人に組み敷かれて自由の幅が少ないけど、せめて顔だけでも背けようとしたら、その動きさえ把握した彼が、私の顎を固定してしまう。
「……いつも俺の言葉を簡単に超えてくる。」
「……?」
何やら不満げなちょっと尖った声は、怒っているわけではなさそうで。
だけど至近距離で見つめ合っていれば、些細な異変も分かる。
……なんか、
「茅人、ちょっと顔赤い…?」
「……」
はあ、と溜息が聞こえた次の瞬間には、再び優しく唇が触れ合って、千歳、と愛しい彼に名前を呼ばれた。
「……俺は、やっぱり、伝えるのが得意じゃない。
でも千歳にはちゃんと、思ってることは言う。
…だからあんまり俺のこと置いて、
可愛い本音ばっかり言うのやめて。」
手加減して、と、
やっぱり不服そうな彼の全部が、好きだ。
この人じゃなきゃ生まれない胸の痛みを知っている。
「茅人が好きって思ったら、
私は直ぐ口が滑るのかもしれない。」
「またそういうこと言う。」
困ったように告げて眉を下げた彼は、リモコンに触れて部屋の電気を消した。
……ムード作り(?)も、やっぱり委ねてしまった。