エセ・ストラテジストは、奔走する




「千歳。」

「…な、に、?」 

とっくに翻弄されてうまく返事ができないままに茅人を見つめたら、慈愛に満ちた、そんな眼差しが送られる。


「可愛い。」 

「……え、」

し、下着のことだろうか。 

でももう上半身に身につけていた筈の全ては、いつの間にか取っ払われて素肌が露わになっている。


「ああいうのが、好き…?」

別にそんな、すごく派手でも無い、シンプルな刺繍だけが成されたものだけど。

いろんな恥ずかしさを抱えつつ尋ねたら
「馬鹿。」と短い言葉で怒られる。え、どうして。



「千歳が着てたらなんでも可愛い。」

「……えっ、!?」


全く想像を超えた彼の発言に、ムードを壊し切るような大きな声を出してしまった。 

かああ、と身体全身が火照る感覚は、冷たかったシーツにも伝染していくようで、熱の逃し方も分からなくなってくる。


そんな私の様子を見守り終えて、ふ、と茅人の目尻がゆるく下がる。


「…惜しいことしてた。」

「……っあ…、ま、って、」

話を続ける気があるのか無いのか、お腹を撫でた彼の手がそのままパジャマのズボンに侵入していく傍らで、焦る私の言葉を奪うように唇を軽く舐められた。


惜しいって、なんだろう。




「……ずっと思ってたけど。」 

「…、?」

「千歳のこと可愛いって、そんなのいつも思ってたけど。
こんな風に言葉にしたらもっと可愛くなるなら、前からちゃんと伝えてれば良かった。」

「……っ、言わなくて、大丈夫です…、」

「嫌。」

こんなのずっとされたら、心臓発作で敢えなく死んでしまう。ふるふる、弱く首を横に振ったけど短い否定とキスで、あっさりと跳ね除けられた。




「千歳。」

「…はい。」

「これから作戦は2までにしといて。」

「え?……っ、ん、」

茅人からの謎の願い出を聞き返すと、同時にまた怪しく彼の手が動き始めて、直情的な声が漏れ出た。


「…"電気消す"のと、"可愛い服"。」

「……も、向いてない、から…っ、しない。」

途切れ途切れになりながらも必死に否定したら「残念。」と、どこまで心を込めてるのか分からない返事を受ける。

そのまま太腿を繊細に撫でた指が、中心へと伸びて「ひぁ…っ、」と、また滑稽な音が口から溢れた。



「"押し倒す"のも彼女にさせるのは、
流石に不甲斐ないから。

それは、譲らない。」


どこに仕舞いこんでいたのか、ぎらり眼光を鋭くして私が彼に何かを伝える前に、今日いちばん激しく唇が重なり合う。

暫く燻っていたお互いの気持ちに着火させるようなキスを受けながら、茅人の首におずおずと両腕を回した。




    小話1「エセ・ストラテジスト再来」



作戦を立てて動くのは、やっぱり向いていない。


熱い息を吐き出すしか出来なくなる中で、
思考する力がどんどん奪われていく。

それでも譫言のように「大好き」を繰り返すと、
「もう良い」って茅人が困った顔で
宥めるようにキスをくれるから。

いつも私の"待って"を聞いてくれない仕返しだと、
また懲りずに想いを口にしたら、
観念したように整った顔を優しく破顔させた。






偽《エセ》・作戦設計者《ストラテジスト》は、

いつも巧く作戦の実行は出来ないけど

愛しい彼への気持ちを伝えるために、

きっとずっと、奔走する。


fin.

< 107 / 119 >

この作品をシェア

pagetop