エセ・ストラテジストは、奔走する
「お風呂、お湯ためようか。入浴剤も入れる!」
「いい。」
掲げた宣言を短く拒否されて肩透かしを食らった。
私ができることなんてたかが知れているのに、それさえ拒まれたら、どうしたら良いのかと考えあぐねていると、そのままぐ、と腕を掴まれる。
「…茅人…?」
そして大きな手が私の後頭部に回ったと思った時には
、そっと胸板に顔を押し付けられていた。
すっぽり彼の中に収まってしまった私は、突然のことに焦って声が出ない。
茅人は香水をつけないけど、この安心する匂いはなんなんだろう、といつも側で香るたびに思う。
2本の腕を使ってしっかりと抱きしめられていて、
その姿勢のまま彼は微動だにしない。
トクトク、と心地よい心音を感じているくせに、心拍がスピードを持って上がっていく、ちぐはぐな自分が
どこか可笑しかった。
「茅人、どうしたの。」
何か、あったのだろうか。
問いかけても特に返事は無い。
「どうしたのって何。」
「え。」
…聞き返されるのは予想していなかった。
抱きしめられたまま、自分の頬を私のこめかみ辺りに
やわく擦り寄せてくるのが珍しくて、細い猫っ毛で擽られる感覚が、まるで甘えてるみたいで。
私も必死に腕を回して抱きしめたけど、なんとなく心に巣食う“不安“は消えない。
「…いつもなら、こんなことしない、でしょ?」
狼狽が伝わるくらい辿々しく、くぐもった声で尋ね返したら、返事は無いままに、茅人は抱きしめる力を強めただけだった。
作戦2「引き合わせるは、ファミリー」
こんなに近くで、触れ合っていて。
茅人が何を考えているのか、
一つも上手く掴めなっている。
そう思うたびに、彼を“遠く“感じてしまう。
「(……いやだ。)」
必死に抵抗を表すように
ぎゅ、と服を掴んで彼にしがみつく。
___その動作は、まるで「私」そのものだ。