エセ・ストラテジストは、奔走する
けたたましく鳴り響いた電子音が、自分がセットしている目覚ましではないと気づいて重い瞼をなんとか開く。
ぼやける視界が少しずつ鮮明さを取り戻すと、すぐ側には、綺麗な寝顔があった。
何年見つめていても飽きることなんて無い。
どちらかと言うと神経質な顔をして、この煩く鳴る音の中でも睡眠が全く妨げられていないことに少しおかしくなって表情が緩む。
"…あ、の。"
"何?"
"えっと、"
お風呂から上がって、うちに置いてあるいつものスウェットを着た茅人に声をかけたは良いけど、そのあとは続かない。
彼は髪の乾きもそこそこなままに、ベッドへ横になって私を無表情のままに隣へ促す。
"…千歳、寝ないの。"
"いや、寝る、けど、"
まごつく言葉の裏を、私は素直に吐き出せない。
会える頻度は、いつもそんなに高くは無い。
だからこそ、こうして茅人が会いに来た時。
夜は、お決まりのように無言のキスを合図に、身体を重ねるのは自然な流れ、に思えていた。
《今日は、しない、の?》
それでも、そう聞くのは、あまりに躊躇われる。
拒絶が、怖い。
ベッドのすぐそばで突っ立っていた私を、寝転んだまま見つめていた彼は最後は痺れを切らしたかのように腕を引いて私を狭いその空間に誘った。
ふわ、と布団をかけられて向かい合う形になって、腕枕をされている。
ゆっくり見上げたら、既に彼は瞳を閉じていて、私の頭に添えた手をぽんぽんと、眠ることを誘導するように優しく撫でた。