エセ・ストラテジストは、奔走する
ただ、奔走する
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千歳が出て行ってからどのくらい、
そうしていたのか。
あの下手な笑顔を思い出すだけで、
深い痛みに襲われる。
スマホの電源を落としているようで、先程から自分のそれは発信音を響かせるだけで、彼女の声は聞こえる気配がない。
……どこをどう、探せばいい。
不安と焦燥感が心を占領し始め、とりあえず必要最低限のものだけを持って玄関へ向かう。
と、靴箱に立てかけるように、ぽつんと置かれた荷物に気が付いた。
千歳が言っていた、"作戦"の雑誌だ。
そう思いつつ手を伸ばせば、送り主の欄に
【鈴谷 理世】
と記載されていた。
名前に、見覚えがある。
千歳の親友の彼氏で、千歳自身も仲が良いとよく話に出る彼だと思う。
大学時代に挨拶を交わしたことはあるが、いきなりの電話なんて、間違いなく驚かせるに決まっている。
でも、千歳のことで、
これ以上は後悔を重ねたくない。
記載された電話番号を押して、出てほしいと、先程から聞き続けてきた発信コールは、2回目で途切れた。
”もしもし。”
無事に繋がったことへの安堵と、
伝えることの緊張が同時にくる。
名前を名乗った後、送り状を見て連絡したことを謝罪とともに告げると、彼は瞬時に状況を把握してくれた。
”…送り状、ってことは、作戦のことも聞きました?”
「はい。」
それらに何一つ気づけていなかったと告げれば
彼が少し笑ったのか、微かな空気の揺れだけが届く。
”すいません、引っ掻き回したみたいになって。
でも、俺らも遊んでたつもりは無いです。”
「分かってます。俺が悪いです。」
”なんかそう言われると、ちょっと罪悪感募るな。”
…どうやら若干は、楽しんでもいたらしい。