エセ・ストラテジストは、奔走する




走って走って、少しでも速く傍に辿り着けるように。


必死に足を動かした末に千歳、ともう一度大きな声で呼んだら、肩をびくつかせて持っていたスマホを手の中で滑らせて慌てている姿まで、愛しくて。



走った勢いもそのままに、ぎゅう、とまるごと包むみたいに抱きしめたら、いつもの優しい心地よい香りが届いて、それだけで涙が出そうだった。



リズムの速い自分の脈拍に追い付きそうなスピードの心音を彼女からも感じて、もしかして千歳も走ってここまで来たのだろうか、と取り留めもない事が浮かぶ。




「千歳、ごめん。」

「…え…?」

「……千歳にはわざわざ言わなくたって、将来のこともちゃんと考えてるって、当たり前に伝わってると思ってた。」



長く一緒に過ごしてきた時間の全てが、大切だ。


でも、言葉を音にしなければ、伝えなければ。

相手に届かないことが沢山あるなんて、
そんな簡単なことから目を逸らしてきた。


いつも、千歳に甘えてきた。



「急に味噌汁作るとか言い出して変だと思って、会いに行ったら、ただ抱き締めるだけでも、戸惑わせてる。
…どんだけいつも数少ない会える機会で、自分本位に触れるだけ触れて、千歳の気持ち置き去りにしてるか思い知った。」


今思い出したって痛みを伴って、胸が軋む。


「……だから今週は、しなかった、の、?」


俺の言葉を聞き終えた千歳は、腕の中で真っ赤な瞳をまた滲ませて頼りない声色でそう問う。


素直に頷いたら「飽きられたのかと、思った、」
と、涙の量を増やしてそう告げる声が震えていて、自分が情けなくて堪らなくなって、抱き締める力を強めた。




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