エセ・ストラテジストは、奔走する
「千歳が好きだ。
これは一生、絶対変わらない。」
気持ちをそうやって改めて言葉にした瞬間、
視界全ての輪郭がぼやけていく感覚があった。
自分の素直な想いを口にするのは、
大事であればあるほど、エネルギーも勇気も要る。
___でも。
泣きそうな自分に焦って戸惑っていると、ありったけの力を使って抱き締め直してくる千歳の肩が、微かに揺れていた。
もう、絶対に傷付けたくない子が居るから。
こうやって、受け止めてくれる子が居るから。
重ねてきた時間は
大事にするけど、言い訳にはしない。
一緒に住みたいと考えていることを告げると、
千歳が困ったように
「…うちのお父さん頑固なの。」
と呟いて、眉を下げる。
"あの頃と今は違う。
私は安心して貴方達の味方になれる。
娘が選んだ人を信じなさい、って
主人が駄々こねてたら首根っこ掴んで
茅人君の前に突き出すから。"
先程の電話で語られた、俺達の強すぎる味方の言葉は、千歳にはまた後で教えようと決めた。
「一応お金を貯めている」と、頑張り屋の彼女が、
頼りない表情でそう告白をしてくれて。
頬に優しく指を添わせながら、「それは結婚準備用」と気の早い提案をすれば、千歳の瞳がまたじんわりと濡れて、きらきら光っていた。
そっと丁寧にそれを拭っていると、いつでも真っ直ぐ俺を見つめる眼差しに気付いて。
気恥ずかしさの中でも瞳を細めたら、
同じように微笑んでくれる。
それを合図に、愛しさに心を包まれながら
そっと優しくキスを落とした。
隠《ヘタ》れストラテジストは、
異変に気付いて、
彼女の想いに触れて、
2人の軌跡を辿って、
下手くそな言葉だけを引っ提げて、
彼女を抱き締めるために、
ただ、奔走する
fin.
「千歳。不満があればちゃんと言って。」
「無いよ。」
「あるだろ。」
「ええ…?あ、じゃあ。
私が"おはよう"とか、"おかえり"って言ったら
うん、だけじゃ無くてちゃんと返事してくれたら嬉しい。」
「……小学生レベルでごめん。」
「(今日の茅人は、なんか、可愛いなあ。)」