エセ・ストラテジストは、奔走する
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《で?》

《え、なんですか。》

《なんですか、じゃねえわ。成功報酬は?》

《はい?》

《俺の数々の作戦によって、恋人との愛が深まったことに対する感謝は無いんか。》

《あのクオリティの作戦で、何故そんな威張れた?》




頭脳ブレーンだと言い張る男が、夜な夜なあのLINEグループを動かすから何事かと思いきや、報酬をせびってきた。信じられない。


《しかも最後の作戦は、私が考えたんだし!》

《ただ是枝さんのとこまで走るって言う、
1番クオリティ死んでたやつな。》

《うるさいんだけど。》



ぬかるんだ雪道をひたすら走って、最寄駅まで迎えに来てくれた茅人に、ちゃんと真っ直ぐ好きだと伝えてから数週間が経った。


《それよりあの時、茅人と電話で何話したの?》

《男同士の会話なんか
大体エロいことに決まってんだろ。》

《頑なに教えてくれないね?
あと理世と茅人、一緒にしないで欲しい。》

《しばく。》


《千歳ちゃん、本当に良かったね。》

《美都…、
本当にお世話になりました。ありがとう。》

《俺には?》

《…アリガトウゴザイマシタ》

《不服そう過ぎて笑うわ。》

《嘘だよ、ありがとう。》


理世はまあ、面白がっていたところもあったのだろうけど、この2人が居てくれて良かったと心から思う。

そういう気持ちでお礼を伝えたら、自分が言ったくせに照れたのか、理世はブサイクなクマのスタンプだけ押してきた。

成功報酬、じゃなくて、ちゃんと色々悩んで素敵な結婚祝いを渡そうとスマホを見つめて微笑んだら、また通知が鳴る。



《茅人君来るの、今日だよね?》

《うん、そう。》

《……千歳ちゃん、大丈夫なの?》

《たぶん無理……、》

《もう諦めてる。(笑)
頑張れ、ストラテジスト。》


個人トークの方で美都から来たメッセージに溜息を漏らす。

私は絶対、作戦計画者(ストラテジスト)には向いてないと充分過ぎるほど分かっているのに、何故こんなことに。


でも私から、
言わなきゃいけないことのような気がする。

「……頑張ろう。」

漏れた言葉はあまりに頼りなくて、苦笑した。



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