それは、魔法みたいに
「だいたい、彼は私と同期なのに私が指導係っておかしくないですか?」
すぐそばでキラッキラな空気を醸し出して、周囲に挨拶をしている男を見やる。まるで歩くグリッターのようで笑顔が眩しくて腹が立つ。仕事しろ。
「加藤さんは第一営業部のエースだよ」
「でも私はまだ経験は浅いです」
エースと言ってもここ最近の成績がいいだけで、年齢は27歳。まだ経験値は少ない方だ。うちの部にはもっとベテランがたくさんいる。
「僕らは君に押し付けたいんじゃない。同期の君であれば、彼もきっと馴染みやすいだろうと思ってね」
「押し付けるつもりですね、あの仕事しない男を!」
「こら、そういうことは言ってはいけません」
「子どもを叱りつけるみたいに言わないでください!」
深いため息を吐いて、例の男を睨みつける。営業部の先輩たちに声をかけられて話しているようで私の視線には気づきもしない。
彼、御上千香は社長の息子で、容姿だけが無駄にいい。それだけだ。
周囲が社長令息だからと妙な気を遣って何も言えず、仕事もあまり頼めず……というのが毎度のことらしく、様々な部署をいずれ上に立つための経験という体で盥回しにされているのだ。
なんで私がそんな男の面倒を見なければいけないんだ。
「加藤さんならきっと彼を立派な営業マンに育てられるはずだよ」
「なんで私が育てないといけないんですか。あんな大きな子どもいりません」
同い年の男の仕事の面倒をみるなんて。しかも相手は社長令息なので、失礼がないようにしないといけない。
ただでさえ忙しいというのに、あの男のために時間を割くのもごめんだ。