それは、魔法みたいに
「私、貴方に指示出すから」
「え?」
「できないとか言ったら摘み出す」
開いた右手をギュッと握り、鋭い視線を御上千香に向ける。甘やかされてきた彼は怯むかと思ったけれど、予想外な表情をされてしまった。
「お、俺にできることあるの?」
「あるのじゃない、やりなさい」
「はいっ!」
なんだかものすごく嬉しそうな顔で元気いっぱいに返事をされて、少しだけ毒気が抜かれてしまう。案外やる気があるのだろうか。
「まずは第一営業部が担当しているコスメブランドの商品、全て覚えて」
彼のデスクに分厚い青いファイルを置く。
通年販売しているコスメと今季に売り出した物がファイルになっていて、細かい説明が書いてあるため最初はこれから覚えていくのがいいはず。過去のコスメは追々でいい。今のブランドの売れている商品を把握することが営業はまず大切。
「名前だけじゃなく、特徴やアレンジ方法、イエベ向けブルベ向けとか資料に書いてあること全て読むこと」
「……全て」
「やるの? やらないの?」
「やります!」
元気よく再び返事をした彼を部署の人たちは口をあんぐりと開けて眺めている。
「さすが加藤さん……もう手懐けてる」
部長の呟きに、ひくりと口角を吊り上げた。
……手懐けてなんていないし、誰のせいでこうなったと思ってるんですか。