それは、魔法みたいに



それからというもの御上千香は必死に会社のコスメについて勉強をしていた。

私が担当しているブランド〝ローズレーヌ〟について、しっかりと読み込んでいるようだった。

おまけにコーヒーまで淹れてくれる。自分でやるからいいと言っても、美味しいコーヒーを淹れる自信があるからと私の好み通りに淹れてくれるのだ。

それがまた本当に美味しくって驚きつつも、ちょっとハマってしまった。


「加藤さん、コーヒー好きなんだね」
「……好きって言うか」
「いうか?」
「まあ……その、美味しいから」

私を見て、御上千香は見透かしたように嬉しそうに笑う。


「それって好きってことじゃない?」
「そう、かもね」

……なんだか調子が狂う。

会社を出た後に、プレゼン用の書類を忘れたことに気づき、私は戻ることにした。せっかくの金曜日だから早めに家に帰りたい気持ちもあったけれど、土日を使ってプレゼンの準備もしておきたい。

エレベーターで上がりフロアへ着くと、電気は一か所だけしかついていなかった。歩いていくと、明かりがついているのはうちの部署だけだ。


「え、なんで……?」

ファイルを広げ、パソコンになにやら文字を打っている様子の御上千香がいて、思わず声を漏らしてしまった。

この人、今日若手の女性社員に飲み会に誘われてなかった?

それにこんな時間になにを作ってるの? 私が振った仕事は終わっているはずだ。



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