望まない結婚なので、3年以内に離婚しましょう。
つい頬が綻ぶ中、昨日に用意していた服を着る。
カーキのブラウスに淡いベージュのタイトスカートを合わせ、秋のコーデを意識する。
髪はアイロンで巻いて、大人っぽく仕上げたつもりだ。
最後にホワイトゴールドのピアスを両耳につけて、今日のコーディネートが完成した。
我ながら、良い感じに仕上がったと思う。
「うん、完成」
少し張り切りすぎただろうか。
けれど、“あの人”に会うと考えたら、どうしても張り切ってしまう。
つい頬が緩みそうになる中、郁也さんが起きる前に早く家を出ようと思い、リビングのソファのそばに置いていた薄いピンク色のトートバッグを手に取った。
中には複数の参考書やファイルが入っているため、結構重い。
持ち手を左肩に置いた時、リビングの外から物音が聞こえてきた。
恐らく音の場所はリビングの外、玄関に繋がる廊下からだ。
2階へ行くための階段はリビングにあるのに対し、地下への階段は廊下の突き当たりにあるため、廊下から音が聞こえてきたということは───
咄嗟に振り返ったと同時に、開けっ放しだったリビングの扉から、寝起きで不機嫌そうな郁也さんの姿が現れた。
最悪だ、ついに郁也さんと鉢合わせてしまった。
この2週間、学校がある日は講義の時間に関係なく早く家を出て、家にいる時はほとんど部屋に籠り、郁也さんと会わないようにしていたのに。
今までの努力がついに崩れた日だった。