望まない結婚なので、3年以内に離婚しましょう。


 静かな車内に流れるのは音楽だけ。
 助手席に座りながら、私はこれからどうしようかと考えていた。

 運転しているのは郁也さん──ではなく、優希くんだ。


 元々今日は車で移動する予定だったようで、今はその車で家に送ってもらっている。

 ランチを済ませた後、優希くんは私に選択を迫ってきた。
 自分とデートを続けるか、それとも家に帰るのか。


 後者を選んでも最短距離で帰れるよう、車で送るとまで言ってくれた。

 二つの選択肢だったけれど、私に決心しろという優希くんなりの優しさだったのだと思う。


 そんな彼の優しさを無駄にはできない。
 思えば私はどうして、こんなにも紳士的で優しくて格好良い人よりも、彼──郁也さんに惹かれてしまったのだろう。

 元々は優希くんが好きで、この結婚を憎んでいたはずなのに。早く離婚したいと思っていたのに。


 捻くれた性格で、不器用で、わかりにくい優しさを示してきて。
 たまに反省した態度をとったり、強引な一面を見せてきたり。私は随分と彼に振り回されている。

 そんな彼を、今度は私が振り回してやりたい。
 とはいえ惚れたら負けという言葉が存在するこの世の中で、私は敗者側の人間なのだ。


 これからも振り回されるのは私である気がするし、思っていること全部口にしたらため息を吐いて面倒がられそうだ。

 その時はその時で、彼との離婚を受け入れたらいい。これが敗者側の行く末である。相手に主導権を握られるのだから。

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