望まない結婚なので、3年以内に離婚しましょう。
「もう大丈夫そうだね」
「はい、ありがとうございます……ようやく覚悟ができました」
「良かった……と喜ぶべきなんだろうけど。やっぱり悔しいな。あとからきた男に奪われるのは」
「まだわかりませんよ、予定通り離婚になるかもしれませんし」
「九条さんはもう少し自覚した方がいいよ。相手、かなり欲深そうだから」
それは悪い意味で捉えるべきなのかと考えていると、家が見えてきた。
鼓動が速まるのがわかる。どうやら私は緊張しているようだ。
当たり前か。
昨日の夜から今日の朝にかけて、私は郁也さんに冷たい態度をとったくせに戻ってきたのだから。
家の前で車が停まり、優希くんが寂しそうに笑う。
「相手に泣かされたらいつでも俺に頼っておいで」
車から降りる前に、優希くんが私の頭に手を置いてくれた。
優しい手つきで軽く撫でられ、やがてその手は離れていく。
「……ありがとうございます」
優希くんに触れられて、もう胸が高鳴ることはなかった。
それは自分の気持ちの変化を強く感じさせる。
一度家のドアの前で深呼吸をして、鍵を開けた。
ゆっくりとドアを開けて中に入る。
玄関には郁也さんの靴しか出ておらず、香織さんを呼んでいないのだと思うだけで安心する自分がいた。
彼はどこにいるのだろうか。
ブーツを脱いでリビングの扉に視線を向けると、中の明かりがついているのがわかる。