望まない結婚なので、3年以内に離婚しましょう。
「郁也さん?」
「──朱莉」
どこか色っぽさを感じさせる低い声で私の名前を呼ぶ。
二人の時に名前を呼ばれたのは初めてで、胸が高鳴り顔が熱くなるのがわかった。
「何ですか、急に」
「名前で呼ばれるのは不満か?」
「不満ではないですけど……」
「それなら良いだろう。朱莉と呼んでも」
突然名前で呼ばれ始めたため、しばらくは慣れそうにない。
「……勝手にしてください。あと近いです」
指輪をつけてくれてから、郁也さんは私に顔を近づけ、表情を覗き込んでくるのだ。
「嫌そうには見えないけどな」
頬に手を添えられ、鼓動は速まっていく一方である。気づけば熱が全身にまわり、思考が鈍くなっていく。
嫌ではなく、ただ恥ずかしいだけだ。
「……可愛いやつ」
「見ないでください」
「無理な願いだな。俺がどんな気持ちで待っていたと思っている」
「それは……」
「俺は自分でも驚くほど、朱莉のことばかり考えるようになっていたんだ。この状況で今更我慢しろと言うのは拷問だぞ」
拷問なんて物騒な言葉を使うものだ。
一度、郁也さんから外していた視線を再び彼へと向ける。