望まない結婚なので、3年以内に離婚しましょう。
「まあ本気になられるよりはマシだと思うべきか。好かれるのは面倒だからな」
「天地がひっくり返っても好きになることはあり得ませんので、どうぞご安心ください」
ついアルバイト中の自分で相手と接してしまうけれど、そうでもしない限り怒り狂ったように叫んでしまいそうだ。
「それは俺のセリフだ。決して俺に本気になるなよ。俺には愛する女が別にいるんだ」
「ええ、もちろんです。その女性を家に呼んでいただいても構いませんよ。私が誠意を持ってもてなさせていただきます。邪魔であれば、ずっと部屋に籠っておりますので」
相手には、愛する女性が他にいる。
それは結婚の前に一度会った時、相手から言われたことだった。
けれど私たちの両親がこの結婚を決め、子供に拒否する権利などなかった。
元々、私のお父さんと相手の父親がライバル企業の社長同士で、互いに手の内を探るため、よく会食を開いていたらしい。
いつしかライバル相手から、意気投合して良き同業職の仲間へと関係が変化していき、私たちの結婚が決まった。
そうすることで、他の同業職の会社に協力的な関係であることをアピールし、二社がさらに力をつけることができるという政略的な結婚である。
「お前と仲の良い夫婦を演じるなど、不安で先が思いやられるな」
その言葉に苛立ちを覚えたけれど、にっこりと笑って感情を必死で殺す。
私たちはあくまで仮面夫婦。
それ以上でも以下でもない関係を、少なくとも3年ほどは続けなければならないのだ。
それでも──と私は思う。
「私、こう見えて我慢強い人間なので安心してください」
目の前の男と離婚するためならば、良き夫婦を演じ抜いてみせると。
強い決意を胸に立ち上がり、これで話は終わりであると行動で相手に告げた。