望まない結婚なので、3年以内に離婚しましょう。
みんな結構酔っている様子だったけれど、目の前の男性はそこまで酔っているようには見えない。
けれど、だ。普通、妻と酒の入っている男を家で二人きりにさせるだろうか。本当に郁也さんはありえない。
「えっと、じゃあ……お願いします」
「もちろんです!」
相手はなかなか折れてくれなさそうで、結局手伝ってもらうことにした。
食器を全てカウンターに置いてくれ、洗い終わった食器を拭いて乾燥機に入れる作業を受け待ってくれていた。
男性の名前は朝春さんと言い、栗色のふわふわした髪が特徴だった。
人懐っこい笑みを浮かべる人で、犬みたいな人だなと思ってしまった。
「郁也ってかなり不器用だろ?」
歳上の人に敬語を使われるのが気になり、自然に敬語をやめてほしいと頼んだら、すぐに変えてくれた。
会話のキッチボールが続き、緊張が解けてきたところで、朝春さんの口から郁也さんの名前が出て、心臓が大きく跳ねる。
「そんなことないですよ。とても優しい人で、私にはもったいないくらいの夫です」
我ながら、よくこれほど簡単に嘘が吐けるものだと思った。
郁也さんは優しさの欠片もないし、もったいないどころか誰かに渡したいくらいである。
「郁也も君も、本当に演じるのが上手いなぁ」
「……え?」
けれど朝春さんは私の言葉を聞くなり、肩を揺らして笑い始めた。