望まない結婚なので、3年以内に離婚しましょう。


「お前は人の厚意を簡単に踏みにじるんだな。本当に可愛くない女だ」


 郁也さんは拒否する私を見て盛大なため息を吐き、余計な一言を口にして私に背を向けた──けれど。

 さすがに今の言葉を聞いて黙っていられるほど心は広くない。


「待ってください」

 まだ敬語を使っているだけマシだと思いたい。
 本当は今すぐふざけるなと叫んでやりたいところだ。


「今日、貴方が同僚の方を家に連れて来たんですよね?それも当日の朝に連絡を寄越してきて、私はとっても焦ったんですよ?」


 怒りを通り越し、最早冷静になる自分がいた。
 この状況がおかしく思え、自然と笑みをもらしてしまう。
 

「もう講義を終えてすぐにスーパーで食材とお酒を調達して、リビングを掃除して、貴方に恥をかかせないよう料理の準備をして身なりもきちんと整えたんです」

 ゆっくりと郁也さんに近づき、見上げ、最後に彼を思いっきり睨みつける。


「それなのに『厚意を』って何ですか?貴方の客を私がもてなして当然だと思わないでくれます?今私はとっても腹が立っているんです、貴方に。顔も見たくないので早くお風呂に入っていつも通り地下に籠っててください!」

「なっ……」


 早口で怒りをぶつけた後、言葉を失う郁也さんの肩を押してリビングの外に追い出す。


「それではおやすみなさい。さようなら」

 最後に挨拶をした後、勢いよくリビングの扉を閉める。

 “ありがとう”という感謝の言葉一つ口にできない郁也さんに苛立ちながら、私は残りの片付けを全て終わらせた。

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