望まない結婚なので、3年以内に離婚しましょう。
ここは納得してもらおうと思い、もう一度結婚している身だということを説明しようとした時だった。
「俺の妻に何か用ですか?」
背後から突然、圧のある低い声が聞こえたのとほぼ同じタイミングで肩に誰かの手を置かれる。
振り返ろうとした時にはもう、背後から感じた人影は隣に移動していて、肩をその人影の元へと抱き寄せられていた。
「い、郁也さん……!?」
彼は鋭く睨みつけるように私──ではなく、優希くんを見つめていた。
どうして郁也さんがここに……と思ったけれど、その前にこの不穏な空気が流れる状況をどうにかしなければと思った。
「あの、この人はアルバイト先の先輩で……」
「初めまして。いつも九条さんとは仲良くさせていただいてます」
落ち着いた声で自己紹介を始めたのは優希くんで、郁也さんだけが圧の感じる不穏な雰囲気を醸し出している。
「……行くぞ、こいつと話すのは時間の無駄だ」
「え、あっ……」
郁也さんは優希くんの言葉を無視して、私の腕を掴んで引っ張ってきた。
慌てて優希くんの方を向くと、彼は苦笑していて。
さらに『頑張って』という謎のエールと共に、さよならの意味合いで私に手を振っていた。