望まない結婚なので、3年以内に離婚しましょう。
けれど先程よりも郁也さんの距離が近くなり、互いの肩が触れ合う状態になっていた。
「ちょっと郁也さん!いきなり引っ張ったらあぶな──」
あぶないではないか、と伝えようとしたけれど。
その前に影がかかり、唇が何か柔らかなモノで塞がれる。
視界いっぱいに映ったのは、郁也さんの整った顔。
彼は目を閉じていて、長い睫毛がハッキリと確認できた。
頭が真っ白になり、状況の理解ができないでいた。
無意識のうちに止めていた息。
至近距離には郁也さんの顔。
唇に触れる柔らかな感触──
「……んっ」
それがキスだと理解するのに、数秒間要してしまった。
ようやく反応をすれば、郁也さんは重ねてきた唇を離した。
「な、何するんですか……!」
顔が熱くなり、咄嗟に俯きながらも怒り口調で話す。
初めてではないけれど、慣れているほどの経験数はない。
そのためキスされた事実に恥ずかしくなった私は、怒ったフリをしてこの場をやり過ごす方法しか思いつかなかった。
「……全部、お前が悪いんだろ」
ここでも郁也さんは私のせいにして、器用に顎を持ち上げてきた。
彼の息がかかり、また唇を重ね合わされる。
今度は触れる前からキスだとわかり、咄嗟に目を閉じた。
同時に郁也さんが着ているネイビーのスウェットを掴み、体が強張るのがわかる。
郁也さんとは結婚式の日に誓いのキスという名の、感情のない冷めたキスを交わしたけれど、その時と今のそれは全くの別物に思えた。