望まない結婚なので、3年以内に離婚しましょう。
「お前って、本当に……」
「何ですか?」
「ガキだな。ケーキくらいで機嫌が直るなんて」
郁也さんは続けて『着替えてくる』と言い、リビングを後にした。
恐らく地下へ向かっているのだろう。
けれど、彼の余計な一言のせいで、収まりかけていた怒りが再び湧き上がってくる。
あの人はどうして怒らせるようなことをわざわざ言うのだろうか。
それが郁也さんなのだと諦めて、受け入れるしかないのかもしれない。
とはいえ黙って言われっぱなしは癪である。
本当は部屋に戻ってもいいのだけれど、今日はケーキに免じてご飯の準備をしてあげようと思った。
郁也さんの帰る時間に合わせて作ったため、まだ温かい料理にかけていたラップを外す。
今日は生姜焼きに大根がたっぷり入った味噌汁、ポテトサラダに白ご飯といったボリューム満点のメニューになっていた。
本当は生姜焼きと白ご飯だけにしてやろうと思ったけれど、さすがに寂しく、同じメニューの私も物足りない気がして汁物と副菜を足したのである。
「お前はもう食べたのか」
「ええ。今日は郁也さんが帰ってくる前に部屋へ行こうと思っていたので」
「……まだ怒っているのか」
「ケーキで怒りを収められたと思わないでくださいね。それと私は先程の郁也さんの言葉にも腹が立っていますから」
熱くなって怒り叫ばないように笑顔を浮かべ、怒っている意思を伝える。
第一、郁也さんの余計な一言さえなければ怒りは収まっていたはずだ。