望まない結婚なので、3年以内に離婚しましょう。
次の日の朝。
郁也さんのご飯の用意だけして、私は準備を始める。
集合時間まで時間はあったけれど、彼が起きてくる前には家を出たいと思っていた。
派手すぎないメイクをして、3日前から準備していた服を着る。
黒のトップスにベージュのスカートを合わせ、大人っぽさを意識したつもりだ。
少しでも子供っぽい服を選べば、郁也さんがうるさいだろうから……と思ったけれど、それは無駄になってしまった。
最後に自分で買ったピアスをつけ、コートを羽織れば完成である。
「本当に行くのか」
一度、ピアスをつけるために部屋へ行き、リビングへ降りると郁也さんが起きていた。
まだ早い時間だというのに、鉢合わせてしまうなんて。
「優希くんと会うことにしたと言いましたよね」
「納得するわけないだろう」
「郁也さんも香織さんと会えるようになって嬉しいんじゃないですか」
「だからどうして香織の名前が出てくるんだ」
「それはご自分が一番わかっているでしょう。時間がないのでもう行きますね」
これ以上、郁也さんと話す必要はないと思い、彼の横を通り過ぎる。
あらかじめ玄関の靴箱から取り出して準備していたブーツを履こうとした時だった。
「俺は今日、お前と過ごすつもりだったんだ。今もその気持ちは変わらない。それから香織とは二度と会うつもりもない」
二度と、という言葉に反応して、ブーツを履こうとしていた手が止まる。
けれど昨日まで郁也さんは香織さんと会っていたし、楽しそうに笑っていた。ただの言い訳に過ぎないと考え直し、ブーツを履いて家を出ようとした。
「待っているからな。お前があいつの元へ行こうと、ずっと」
「……迷惑です」
そんな真剣な声で話さないで欲しい。
昨日の二人を見た後のため、何も期待はしないけれど。
私は逃げるように家を後にして、優希くんとの待ち合わせ場所へと向かった。