「…………きみ、ほんとずるい」
「…………きみ、ほんとずるい」
正直、もう終わったことだし、別にもういいでしょう、っていう気持ちは否めなかった。
「それで? わざわざ会社まで来て何の用なの?」
あれから、おどおどしながらも「ふたりとも落ち着いて」と仲裁に入ってくれた眞鍋さんの助言も相俟って、体調不良(仮病)を理由に午後休を取った。「一度、きちんと話し合った方がいいよ」と上司への報告を申し出てくれた彼はきっと、一和理が私の付き合っていた人だということに気付いたのだろう。
まぁ、捨てただなんだのと、そんな会話をしていたら嫌でも気付くか。情けないところを見せてしまった。
「……別れるって、何だよ」
「……何って……そのままの意味だけど」
どこか手近なところでと一瞬考えたのだけれど、人目があるところで捨てただなんだのの続きを話し合う勇気なんて生憎、持ちあわせていない。本当は嫌だったけれど、彼のテリトリーには入りたくなかったから、渋々、自宅へと招いた。
コーヒーをふたり分いれて、付き合っていたときに使っていた彼用のマグを捨てていなかったことにイラ立って、それでも必死に心を落ち着かせながらソファに座って問いかければ、返されたのは何とも初歩的な疑問とも呼べない疑問だった。
「っだから! 何で別れるって話になんだよ!」
「何でって……もう無理だと思ったから」
「っ」
何に怒っているのか。話の流れ的に彼が別れたくないと言っているように聞こえなくもないけれど、まぁそれはない。ありえない。
「……ねぇ、もういい? ふったふられたが気になるなら、きみが私をふった、ってことにすればいいから」
だって彼は、私を好きじゃないから。