「…………きみ、ほんとずるい」

 ああっ! くそっ!
 そんな悪態を吐き出して、自身の後頭部をガシガシとかいたあと、彼は、ゆっくりとソファから降りて、私の前に(ひざまず)いた。

「優美」
「……っ」

 膝においていた左手をそっと取られ、手の甲をするりと撫でられる。

「自分の店が持てたら、優美にプロポーズする、って決めてた」
「……」
「開店祝いも、一緒にしたかった。言い訳でしかねぇけど、プロポーズのこと、俺の周りの奴は全員知ってて……口止めはしてたけど、酔うと何言うか分かんねぇから……その、悪かった。結局、優美を除け者みてぇにして、」
「……」
「約束破ったのも、本当に、悪かったと思ってる。これも、言い訳になるけど、俺は、優美のこと手放す気なんてこれっぽっちもねぇから、プロポーズは優美にとっても、俺にとっても、一生に一度だ。だから、その、サプライズっつうか、特別なもんにしたくて、色んな奴に相談してた。それで、一回皆で集まって計画立てようってなったけど、そいつら全員集まれる日が約束してた日で、」
「……」
「個展も、最終日だって言われて、じゃあ個展優先しねぇとって思ったら、またイチから集まる日程あわせなきゃいけねぇなって思って……つい、口に出た。俺が、悪い……ごめん」
「……」
「なぁ、優美」
「…………何」
「さっき、一緒にいた奴と、付き合ってんの、か?」
「…………付き合ってない」

 ふるりと首を横にふれば、きゅ、と指先を握られた。
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