「…………きみ、ほんとずるい」
だから、今回の個展に行きたいと話したとき、「じゃあ行くか」って、すぐにWebでチケットを取ってくれたのがどうしようもなく嬉しくて。それに行くために、彼が店を臨時休業にしてくれると言ってくれたのが追い打ちになって、堪らず泣き出してしまったのを覚えている。ほんの、一ヶ月くらい前の話だ。
けれど結局、私との約束は前日に交わされた友達との約束以下だった。元より彼は個展なんかに興味なんてなかったから、自分が楽しめそうな方を優先したのだろう。
まぁ、興味がないのは、個展に限った話じゃないのだろうけれど。
背後で何やら名前を呼ばれていたような気がするけど、知らない。私じゃない。店員さんに話しかけて、品名を伝え、代金を払って、店を出た。
ばっかみたい。独りごちて、足早に歩く。終わりの見えない人混みを掻き分けて、駅の改札をくぐり抜けて、電車に揺られ、また改札をくぐる。そうやってたどり着いた自宅。中に入って、がちゃりと鍵を閉めた瞬間。
「っ、ば……っか、やろ、」
ひくりと喉がひきつり、絶命寸前のカエルのような音がもれる。ぼた、ぼたり。安っぽい剥き出しのコンクリートに、目玉から溢れ出たそれが落ちて、弾けて、滲む。
ああ、馬鹿だ。馬鹿野郎だ。
何を期待したのだろう。なかったのに。彼の中には何もなかったのに。少しくらいは、なんて、ゼロがイチになったところで何も変わりはしないのに。
「…………私の好き、だけじゃ、」
ずり、ずりり。
背中が、体重を預けている鉄の扉を滑り落ちていく。冷たい。痛い。
「やっぱ……ダメ……かぁ、」
ああ、痛い。痛い痛い痛い。
心が、裂けそうだ。