「…………きみ、ほんとずるい」
そうやって!
彼が仕事で携帯を触れないであろう時間にメッセージを送った。そしてすぐに電源を切った。
返事を、見る気はない。というか、きっと、返事なんてない。
数日分の着替えと仕事で使っている手帳をキャリーバックに詰め込んで、家を出た。駅まで歩いて、タクシーを捕まえて、実家の住所を告げる。「お客さん、結構料金かかりますよ?」そう言われたけど、大丈夫ですと微笑んだ。心配しないで、運転手さん。金はある。クレカもあるし、電子マネーだってあるから。
車内で揺られながら、実家までは一時間くらいかなぁ、なんて思いながら、これからの予定を頭の中で立てていく。
まず、親に謝る。そして説明する。しばらく泊めてもらう。翌朝、実家の電話を借りて会社に電話をかける。申し訳ないし不謹慎だが、父には重病人になってもらおう。それで、母ひとり置いておけないからと取れるだけの有給を取ろう。「そろそろ有給消化してね」って先月言われたばかりだから、大丈夫。取れる。
それから、それから、と考えている内にどうやら眠ってしまったらしい。やや大きめの声で運転手さんに起こされて、支払いをして、タクシーが走り去ったのを確認してから、実家のインターフォンを押した。
「夜遅くにごめん、母さん、父さん」
夜中も、夜中。きっとふたりは寝ていただろう。一回押しただけで私を中へ迎え入れてくれた彼らには、感謝しかない。
「明日聞くわ。今日はもう寝ましょう」
一体、どうしたの?
本当に投げ掛けたい言葉は、おそらくそれだったに違いない。けれど、母も父も、私の身体を気遣って、何も聞かなかった。