「…………きみ、ほんとずるい」
惚れた弱味につけこんで!
それほど愛着のないものでも、ある日突然なくなると何故だか困る。きっと人間は、そういう風に出来ているのだろう。だから彼も、いきなり別れを告げた私に困惑して、混乱して、メモを挟み込むなどという行動に走ってしまったのだと思う。で、気付いたのだろう。私という存在がいようがいまいが、彼の世界には何の影響も及ぼさないってことに。
切れ端をゴミ箱につっこんだ日から、三週間が経った。もしかしたら、なんてたらればを危惧して、彼の店のオープン時間を過ぎてから家に帰るようにしていたけれど、あの日以降に切れ端が挟まれていたことはない。
カタカタ、カタカタ。其処彼処から聞こえるタイピング音を聞きながら、キリのいいところまで出来たし、時間的にもお昼休憩に入っても大丈夫な時間だからとパソコンをスリープモードへと切り替える。
「ね、詩乃。お昼行けそう?」
「ごめん優美! 無理!」
今日は何を食べようか。
そんなことを考えながら、斜め前に座っている社内で一番仲のいい同僚、御来屋詩乃にランチのお誘いをかけるも、あえなく撃沈。仕方ない。会社の近くに新しく出来たカフェに行ってみたかったけど、ひとりで行くのも何かあれだし今日は社食で済まそう。
「あ、あの、沼津さん」
「あ、はい。何でしょう、眞鍋さん」
決意し、財布を持ったところで、同部署の眞鍋さんに呼び止められてしまう。
何だ何だ。新たな仕事を押し付ける気か? ふざけんなよ。
「よっ、よかったら、あのっ、おおお昼、ご一緒しませんか!?」
なんて、思ってませんよ。ええ。