「…………きみ、ほんとずるい」
意外だなと、思った。
実を言えば、彼から向けられる好意には薄々気付いていた。気付いてはいたけれど、私はまだあの人と付き合っていたし、何より彼にはそれを私に伝える気がなさそうだったから、きっと告白されることはないのだろうと決め付けていた。
だからこそ、素直に驚いた。そして素直に嬉しい。真っ直ぐに好意を伝えられることが、例えその相手が己の意中の人でなくとも嬉しいと感じるだなんて、私は知らなかった。付き合った期間は四年もあったけれど、あの人は私に、一度だって愛を音にして伝えてくれたことはなかったから。
まぁ、ないものをあるかのように伝えられる器用さを、あの人が持ちあわせていなかっただけなのだろうけど。
「……え……と、」
「お待たせしましたぁ~日替わりプレートになりまぁす!」
どう、言葉を返そうか。
すぐには浮かばず、言葉を詰まらせた瞬間、空気を読んでいないのか、逆に読んだからこそなのか、元気良くオーダーした品を届けに来た、可愛らしい店員さん。プレートをおいて、ドリンクもおいて、「ごゆっくりどうぞ~」と最後に伝票もおいて立ち去る彼女に、「ありがとう。ちょっと助かりました」と心の中で感謝の意を示す。
「……美味しそうですね。あの、先ほどのお話、食べてからでもいいですか?」
「っあ、はい。すみません、僕、焦って、」
「いえ。それじゃあ、いただきます」
「い、いただきます」
フォークで割った肉の塊からどろりと流れ出てきたとろとろのチーズを見て、帰りにさけるチーズでも買おうと、そんなことをぼんやりと思った。