小説家と絵描きの日常
山と海に囲まれ、四季を通して花々が楽しめるお寺や神社が多く、どこか非日常なゆったりとした時間が楽しめる町である鎌倉にも冬が訪れた。

瓦屋根の立派な和風のお屋敷で、藤雪菜(ふじゆきな)は暮らしている。祖父から譲り受けたこのお屋敷で、雪菜は小説家として生きている。

この町は、芥川龍之介や夏目漱石、与謝野晶子など数多くの文学者が創作活動を行なってきた。そんな町で小説を書けることに、雪菜は嬉しさを感じている。

「んっ……」

ブルリと体が震え、雪菜は目を開ける。こたつに入ったまま眠っていたらしい。こたつ机の上には、書きかけの原稿用紙が散らばっていた。

「ああ、眠ってしまっていたのね……」

昨日は遅くまで起きていたわけでもないのだが、朝ご飯を食べて温かいこたつの中にいると眠くなってしまうのだ。雪菜はまた眠ってしまうといけないため、こたつから出た。

こたつから出ると、ハラリと緩んでいた帯が解けた。若草色の着物が着崩れている。雪菜は着物を治し、立ち上がった。
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